母が知らない女になった⑦

これが普通?

 ママはテニスに行かなくなってから、家にいる時間が増えた。

 

 いつも忙しくしていたママは、テニスがなくなって明らかに時間を持て余しているようだった。

 とはいえ、パートにも出かけているし、家事は全てママ任せだし、することがないわけではない。これまでがタフすぎたのだろう。少しくらいゆっくりできる時間が出来てよかったのではないか。

 

 ママは、「テニスがないと何すればいいか分からん。」といい、これまでテニスにかけていた時間はキッチンで料理して過ごしていた。

 私はママの手料理がすごく好きだったから、料理の品数が増えて、嬉しかった。

 そして、バイトや外出から帰った時にママが家にいることが増えて、嬉しかった。

 

 たくさんたくさん、話をした。

 付き合っている人の話やこれからの進路の話、姉や弟の話…。

 

 しかし、当のママはだんだんと笑わなくなっていった。

 植物が太陽の下で光合成をするように、魚が水中で呼吸するように、ママはテニスを欲していた。ママにとってテニスがそれほどまで意味があるとは思わなかった。

 

 テニスのない時間をどうにか埋めようと、家計簿をつけたり、スイーツも作ってみたりしているようだったが、目をくしゃっとさせて顔全体で笑う笑顔は見られなくなっていった。

 

 そんな時、ママに「暇だし旅行に行かない?」と言われた。

 私は無類の海外旅行好きだ。これまでも何度かママを旅行に誘っていた。

 旅行先でみた素晴らしい景色をママや家族と一緒に見たいと思っていた。

 

 けれどママは「日常が楽しいから非日常を味わわなくていい」という意見で、海外旅行はおろか、国内旅行もあまり興味のない人だった。

 だから私はそんなママが「旅行に行きたい」と言ってくれるのが嬉しくて、すぐに計画を立てた。

 行先は韓国だ。

 私もママも辛い物が好きだし、お金もそれほどかからない。

 

 旅行の日はあっという間にきた。

 親子旅行というより、完全に女子旅だった。

 気になるお店に入って試着をし、忖度ない感想を言い合い、買い物をした。

 お腹がすいたらふらふらっとお店に入ってご飯を食べた。1日に何食もして、もはや昼ご飯なのかおやつなのか夕ご飯なのか分からない。

 韓国名物のアカスリをした。すっぽんぽんの体をモノのように扱われ、体中をゴシゴシと磨かれた。隣を見ると、ママも同じように扱われていてなんだか笑えた。

 

 あの楽しかった2泊3日の旅を、私は忘れない。